一章 彼女の目玉が大変です。

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 「なんでこんなことになっちゃったの?」  僕はため息をつく。  ――ねえ、もしかして見せたい物って揺れる目玉なの?――と聞きたいところだが、我慢する。  「えっとね。お風呂上りにね、コーヒー牛乳を飲もうとしたの。ビンのやつ」  ちらっと、上目遣いで僕を見上げる。それは反則だ。僕の心臓が三倍速になる。  「今どき、珍しいね。ビンのコーヒー牛乳なんて」  気が付けば顔の筋肉がゆるみ、翼ちゃんの話に乗ってしまっていた。翼ちゃんがあまりにも可愛い顔をするから、ついほだされてしまったのだ。怪我の原因を聞いて、厳重に注意する予定が、いつの間にかなし崩しになっている。  「でしょ? 昨日、お母さんとスーパーに買い物に行ってビンのコーヒー牛乳を見つけたんだ。それで荷物を持つお駄賃に買ってもらったの」    翼ちゃんはうつむいていた顔をパッと上げると、目を輝かせて生き生きと話し出した。生き生き……と言っても、彼女の心臓は止まっている。  (それに胸を張っている場合じゃないよ、翼ちゃん。目玉が大変な事になっているのだから。ついでに言うと、荷物持ちのお駄賃でコーヒー牛乳を買ってもらって喜ぶ。それは小学生レベルだよ、たぶん)
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