朝7時45分、三両目、前の扉

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 こちら(似非父兄)としても、あの女の子がどれだけ人を、さと君を傷つけたかわかってるだけに、そんな子とお付き合いをするようなまさ君には好感度はもうない。  ないもんだから、ここにいる大人たちも一様に不機嫌になる。  ほんの少しだけ後退りしたまさ君が、二人の手元を見て「うぇ、何お前ら気持ち悪いことしてんの」と顔を顰める。  ああ、ここにも差別が・・・と事情を知る大人がため息をついたその時、ニヤリと笑ったこうた君が、これみよがしに繋いだ手を掲げた。 「俺はさとが大好きだから。あんたみたいに女ならどんな性悪でも大丈夫ってわけでも、ヤレればビッチだろうが人の彼女だろうが手を出すクズでもないからな」  そう言って持ち上げたさと君の指にそっとキスをして、空いた手でさと君の頭を撫でる。 「さとは一途で健気で、そして正直だ。わかった上でハッキリした答えも出さずにいつまでも側に置いておきたかったんだろうけど、そんなの、あの性悪となんにも変わらない。お前にさとはもったいない」  キッパリと言い切ったそのセリフは、まだ妻と知り合う前の若かった時に、彼女を取られた俺が相手の男に言いたかった言葉で、思わず拍手をしてしまった。  その拍手はジワジワと広がり、いたたまれなくなったまさ君は、まだ降りる駅じゃないのにそそくさと降りていく。  例の女性が「ざまぁ」と言ったのは、聞かなかった振りをしたけど、気分的には俺も、そしてここにいる事情を知ってる大人はみんなそう思った。  なぜなら、その「ざまぁ」のあとくすくすとした笑いが徐々に大きくなり、しまいには大爆笑になったからで、笑いが落ち着いた頃あちこちから「よく言った!」と再度拍手があがった。
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