朝7時45分、三両目、前の扉

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 そろそろ十月だと言うのにまだまだ車内は暑くて、夏の間は取引先の心象のために持ち歩く替えのワイシャツは一体いつまで持ち歩けばいいんだろう、と今年の夏の終わりについて妻と話していた頃、あの子たちの名前を知った。  可愛らしい子は『さと』君で背の高いイケメンは『まさ』君。そして後から乗り込んでくる『さと』君の同級生らしい子の中で一番『さと』君と話すのが『こうた』君。  いや、盗み聞きをした訳じゃない。これは断じて盗み聞きじゃない。  高校生が増えたことで混み具合が・・・と言っても聞き入れては貰えないだろう。  実際、『さと』君の恋心はとても気になった。  男同志で付き合うの付き合わないのってのは俺の若い頃にもあったし、相談もされた。  気持ち悪い、とはならなかったし大切な友人だったから親身になっていた気もする。  恋愛事情なんて本人が一番よく知ってるし、そういう関係は今よりももっと厳しい目で見られていた。  世間体のために、親のためにと結婚したあいつは二年も経たずに離婚して、未だに独身だ。  だからという訳じゃないんだけど、若い子が同性を好きになるのはわからないでもないけど、そんな苦労しなくても、と思ったのも本当で。  それに『まさ』君の方は多分『さと』君の気持ちを知った上で知らないフリをしてるんじゃないか、と思う言動が多いから。 「俺のために」と「俺が頼んでるんだから」は、まさ君がよく使う言葉で、それはもしかしなくてもとても狡い言葉だ。  俺は、娘と同年代の子たちのそんな心の動きを、そうだなぁ・・・観察するように見ていた。
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