朝7時45分、三両目、前の扉

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 娘の志望校がこの沿線の女子校だと聞かされ、私立だから金がかかるなぁとため息が出たある日、さと君とまさ君の他に、娘の志望校の制服を着たさと君によく似た女の子も一緒に乗り込んできた。  フワフワした印象のその女の子は、見た目に反してしっかりした子のようで、さと君を叱咤している。  曰く、あんたはぼんやりしてるんだから。  曰く、もう少し頭を使えばいいと思うわ。  曰く、男のくせに、ハッキリしなさいよ。  多分兄妹なのか言葉に容赦がなく、そのくせまさ君に対する態度がいかにも女の子然としていて、当人同士はどうか知らないけど、傍から見てるとあの女の子のどこがいいのかわからないと思うほどで。でもまさ君にとってはそこもまた魅力なのか、始終ニコニコと女の子を見ていた。  まさ君が、名残惜しそうに女の子の頭を撫でて、寂しそうに「じゃ、行くね」と女の子の頭から手を離した。そのままさと君の頭を撫でるのかと思ったけど、まさ君はさと君に触れることなく手を振って降りた。  あ〜ぁ、さと君失恋かぁ。とほんの少し、上手くいけばいいのにと思っていた俺は、女の子の言葉に、欠片程度には持ち合わせていたさと君への親心が傷ついた。 「あんた、未だにマサユキの事好きなの?男のくせに気持ち悪い。双子の片割れがホモなんて、私の人生汚さないでよ。サッサと出ていけば?ほんと、死ねばいいのに」  キツい目でさと君を睨んだ後、颯爽と降りていったあの子に、涙を堪えて俯くさと君はぎゅうと拳を握りしめていた。周りを見れば顔を顰めて女の子を睨みつけていた周りの大人たちが、乗り込んできたこうた君にホッと胸を撫で下ろす。
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