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「はよっす。・・・ってどうしたっ、何があった、さとっ」
俯いてグズグズと鼻をすするさと君に慌てて寄るこうた君は、キッと周りに目を向ける。
いや別に、周りの大人たちが寄って集ってさと君を虐めたわけじゃないんだ、と両手を前に広げふるふると頭を振る俺の横で、アレアレ と外を指さす隣の女性に誘われて外を見たこうた君は、まだそこでさと君を睨んでいた目当ての女子高生をみて盛大に舌打ちをした。
そしてゆっくり、殊更ゆっくりとさと君に手をかけて「大丈夫」と囁いた。
声を殺して泣くさと君に、乗り合わせた人たちが胸を痛める。
「今日はサボっちゃおうか」
中々顔を上げないさと君に、こうた君は提案する。
俺もウンウンとうなづいて、どうせ今日は勉強なんて出来ないでしょ、とサボりを容認する。周りの大人たちだって行け行けとうなづいていた。
さっきの女性が、何を思ったのか財布から千円札を出して「マックでも食べておいで」とこうた君に渡したのを見て、あ、俺も。と少ない小遣いの中から千円札を渡した。
「千円じゃ今どき足りないでしょ」と笑ってみせたら「どこの田舎ですか」と笑いながらホイと差し出される数本の腕と数枚の千円札。降りる駅で「頑張れよ」とこうた君の背中を叩き、片手を挙げる背中に、同じ駅で降りて頭を下げるこうた君。
「あとは全て任せとけ」とシニカルな笑顔を見せたこうた君のお友達が、ドアが閉まる寸前に「ちゃんと締めとく」と言ったのは、多分気のせい。・・・ってことにしておく。
電車が発車すると同時に、残った子たちが一斉に頭を下げた。
「乗り合わせただけの俺のダチのために、ありがとうございました!!」
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