朝7時45分、三両目、前の扉

9/14
前へ
/15ページ
次へ
 それからは、さと君も少しづつ持ち直して口の端が上がる程度だった笑顔が、歯を見せるようになり、小さかった笑い声も徐々に大きくなった。  さと君の一駅後に乗ってくるこうた君も、さと君が大事だというのを隠さなくなり、ベタベタとすることはないけれど、必ずさと君と向き合い、友だちのそれとは全く違う距離で、どことなく甘い雰囲気を醸し出していた。  朝、二人のフワフワした甘い雰囲気にあてられ、夜には妻とイチャイチャする日が続くと、季節はいつの間にか秋を過ぎて初冬になる。  北の方で初雪が観測されましたと朝の情報番組でアナウンサーが言えば、こっちもそろそろマフラーが必要だねと妻が新しい物を用意してくれる。  いつもより少しだけモワモワした車内は、それでも彼らの甘い恋に癒され、騒がしい子たちにくすくすと笑いが出る。  さと君はほんの少し、可愛いからキレイといった感じになった。  冬を前に、こうた君と少し進んだんだろう。二人を包む雰囲気もただ甘いだけじゃなく、しっかりした・・・なんていうか『恋人』という雰囲気のものになってきた。  こうた君が一方的に好きだと言っていたあの時から、さと君もそれに応えて、その想いが天秤で釣り合うようなそんな感じで、もう 似非父兄としては「高校生ではまだキスまでだぞ」とか「そんなに近づいたらダメだ」とか、先輩がよく「ウチは男の子しかいないけど、ドラマ見ると娘を嫁に出す気持ちがよく分かる」と言っていたのを思い出して「あぁ、この気持ちか」と納得してみたり。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加