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「ハッ、女がいるのか」
「アホウ鳥の翼」号の船長ゾロンが大声で言う。
その夜、三人は男が指定した酒場に出向いた。
奥の半個室の席でその男、ゾロンは待っていた。
「何か問題があるのか」とルーン。
「問題も糞もねえ。女は乗せられねえよ」
「何故だ」
「お前らホントに何も知らねえんだな。女は海に出せねえ。海の神様が欲しがるからな」
「ではなぜ隊商の女達は乗せるのだ」グランツが聞いた。
「隊商?ハッ、あの女達は人間じゃねえ。商品かただの荷物だ。船に乗せても船倉に入れとくだけだからな」
「ならば私が船倉に入ればよいのだろう」とリリス。
「無茶言うな。言っちゃあ何だが他の商船はともかく俺の船の船倉は人間が入って我慢できるほど広くねえ。悪いがあきらめるんだな、と言いたいところだが」
「言いたいところだが?」
「べっぴんの割に可愛くねえ姉ちゃんだな・・・まあそう言いたいところだが俺も今金に困っててな。どうだ、危険料で倍払えば、乗せてやらんこともない」
「初めからそういうつもりだったのか」
「さあな。だが忘れて貰っちゃ困る、基本的に船に女をのせちゃあいけねえんだ。迷信かもしれねえが、海の男達には常識だ」
「分かった分かった。倍払おう」リリスは折れた。
「リリス様!」
グランツの顔が言っている。軍資金にあまりゆとりがなくなってきているのは確かだった。
「よし決まった。で、どこまで行くんだ」
「最終的にはクウだ」
「クウか・・・クウまでは行ったことがないし、港があるって話も聞かねえ。そうだな、ちょっと手前になるが、クレンツでどうだ」
三人は顔を見合わせて、手持ちの地図を広げた。エルロンの西方にはフラシアがあり、その向こうには幾つかの自由貿易都市が点々とあるだけの無政府地帯が広がっている。そしてクレンツとは、その自由貿易都市の中でも最も西にある都市である。
大まかな地図によれば、クレンツとクウの間には、広大な砂漠が広がっているらしい。ちょっとではなくかなり手前だ。
「砂漠の向こう側までは行けぬのか・・・」
「そうさなあ、ここじゃああまり情報が入ってこないからなあ。よしこうしよう、まずクレンツまで行く。そこから西はそこで集めた情報次第。ただし別料金。どうだ」
選択の余地はなかった。
どちらにしろ、行く先の情報が少ないのは彼らとて同じだったのだから。
「よかろう。とりあえずクレンツまで頼もう」
「よし決まった。では明日の朝、二つ目の鐘が鳴る時までに港に来てくれ。遅れたら」
「割増料金か」
「ハッ、わかりが早えじゃねえか姉ちゃん。まあそういうこと」
商談は成立した。
幾らふっかけたのかは分からなかったが、ゾロンは上機嫌で、彼らに酒と食事を振る舞った。
その酒場の片隅で、密かにその彼らを見ているローブ姿の者がいるのに、彼らは気付かなかった。
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