<第一章:アホウ鳥の翼>

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 翌朝早く、一行は宿を引き払った。  ルーンが市場へ行き、馬を処分してくると、三人は港へ向かった。  「アホウ鳥の翼」号はすぐに見つかった。確かに小さく古いようだが、作りはしっかりとしていて手入れも行き届いているようだった。 「船長!」リリスは船に向かって叫んだ。 「おう、早えじゃねえか。なら早速・・・アブねえ!」  三人が振り返ると、ローブ姿の魔術士風の者が、キラッと光る何かを持って突進してくる。  とっさに交わすリリス。 「何奴!」  現れたのは一人ではなかった。同じローブ姿をした者が四人、手に刃物を持って三人に襲いかかる。 「リリス様、先に船へ。ここは我らにお任せを!」ルーンが、剣を振るいながら叫ぶ。  リリスは、剣の切っ先で敵の攻撃を交わしながら足場板の上を船に向かった。 「貴様ら、何者!」  返事はない。  グランツの剣が、一人のローブを裂いた。 「女!?」  ローブの中から、髪を短く切った女の顔が現れる。しかし、その青白い顔には表情が全くなく、おまけに攻撃の鋭さに対して殺気さえも感じないのだった。 「こいつら一体何者なんだ!」ルーンもたまらず口走る。そのルーンの一撃が、見事にその一人の腕を切り落とした。しかし・・・ 「・・・・!?」  腕を切り落とされた女は、血の一滴さえ流さずに、まさに何事もなかったかのように再びルーンに襲いかかる。 「化け物か!」 「化け物は、夜出るもんだぜ!」   グランツとルーンは必死に剣を振るう。その女だけではない、他の三人も、腕を切り落とそうが、もっと酷いのは頭を吹っ飛ばされようが全く何事もなかったかのように迫ってくるのだ。  さらに、その切り落とした腕さえも、自らの意志を持つように動き回っている。 「お二人さんよう!コイツを使いな!」   船の上から、ゾロンが二本の松明を投げる。  さすがにそのまま受け取ることはできなかったが、地面に落ちた松明を拾ったグランツは、それを剣と共に振るった。  ドウ!松明が女の腹を直撃する。するとたちどころに炎がその女を包み、女の「化け物」はようやく動きを止めた。 「こりゃ効くわ」ルーンもそれにならい、次々と女達とそのパーツを焼き払う。  ゾロンのお陰でようやく切り抜けた二人は、やっと船に乗り込んだ。 「助かったぜ船長。だが奴ら何なんだ!」たまらずグランツは訊いた。 「知らねえよ。だが聞いたことがある。身体を切り刻まれても死なない化け物の話をな」  やっと落ち着いた二人は、ゾロンの話を聞いた。 「その話じゃあ、その化け物を倒すには、身体を焼き尽くすしかないってな。長いこと船に乗ってあちこち行ってると、いろんな不思議な話を聞くもんだぜ。まあ、そんな訳でもしかしたら、と思ってな」  ゾロンの目が少し遠くを見ているようになっていた。 「だが、本物は初めて見たな。あの格好からしてどこかの坊さんかとも思ったが・・・どうやらあんたら、相当な訳ありだな」  リリスはまた割り増しをふっかけられるのかと思ったが、ゾロンはそれ以上何も言わなかった。 「紹介しよう。俺の相棒、デューンだ」   デューンと言われた男が、船室から頭だけ出してちょこん、と頭を下げる。  小柄だががっしりとしたゾロンに対して、デューンは背丈こそ高かったが、かなり細くひょろっとした感じを受けた。 「では早速船を出そう」ゾロンとデューンは出港準備を始めた。  どうやらこの船の乗組員はこの二人だけらしい。   その時、遠くからゾロンを呼ぶ声が聞こえた。 「待てゾロン!てめえこの落とし前、どう付ける気だ!」  向こうの方から数人の男が走ってくる。 「急げデューン!」と言ってもゾロンは余裕顔だ。  呆気にとられるリリスたちに、少しも慌てずデューンが言った。 「船長は一昨日、奴らに博打で大負けしたんです」 「へへ、ざまあみやがれ」間一髪、船は桟橋から離れた。  離れていく桟橋に、危ない雰囲気の男達が指をくわえて一列に並んでいる。 「この船は借金のカタになっていてな。今日の二つ目の鐘が引き渡し期限だったのさ」ゾロンは悪びれもせずに言った。   こうして、「アホウ鳥の翼」号は、海路をクレンツに向けて出発した。
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