<第二章:闇の凶戦士>

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「あまり北の塔と変わらぬやも知れませぬが」  アロンとラミレスは、アウロスをエストリア市中のとある場所の地下室にかくまった。 「アロン・・・ラミレス・・・」 「司祭長殿、そんな声を出さないで下さい。それより今後のことを考えなくては」 「今後のこと」 「あのブリアトーレめをこのままのさばらせておく訳には参りませぬ」 「しかしどうやらブリトニー殿下とブライス殿下は完全に奴らの手に落ちているようで」 「ブライス殿下はご無事じゃ」 「・・・?」 「と言われますと」 「あの混乱の中、たまたま神殿に来ておったグランツに北の塔の秘密の通路を教えたのだ。そして、グランツはブライス殿下を救出した」 「グランツが、でありますか」 「そうだ。今頃はハストル師に会うためにクウの国へ向かっているはずだ」 「クウ?」 「そう。クウの山奥に住むと言われるハストル師ならば、ナイめの魔術を解く事ができる筈。もし無理ならば、他に方法はない」 「魔術を解くとは、殿下を男に戻すということで?」 「そうだ。その上で正当な王位を主張する」 「しかし、それまで国民は待っているでしょうか」 「そうです。今でさえ国民はブリアトーレの支配に慣れ始めている」 「だが、大義名分のない上にブリアトーレの追放はできぬ」 「国に対する罪があるではござらぬか。国を混乱させた罪が」 「だがそのあとはどうする?王がおらぬからと国事を止める訳には行かぬ」 「そのために宰相殿がいるのでは?」 「確かにそうだ。しかし宰相は宰相。最終決定権は王にあるのだ」 「・・・・・」 「ブライス殿下にしろ他の王子殿下にしろまずナイの術を解かなくてはならぬ。ブリアトーレを追放してもナイがいる限り同じ事だ」 「ではどうすればよいのです」 「今回私を救出してくれた手際は鮮やかだった。ブライス殿下のお帰りまでに、ブリアトーレによって放逐された諸将や大臣達を解放し、その時のために備えるのだ。そして、ナイの密かな陰謀を阻止せねばならぬ」 「ナイの陰謀?」 「ナイの本当の目的はもちろんブリアトーレの王位などではない。奴の目的は十中八九暗黒神スールを復活させることだ。そのための妖しげな儀式を執り行うため、ブリアトーレに与して神殿を手中に収めたのだ」 「何ですと?」 「では本当の黒幕はブリアトーレではなく、ナイ・・・」 「今の時点では私の推測に過ぎぬが、おそらくはな。だが私は見た。奴があの恐ろしいヒメラの布の術を使うのをな。残念ながら魔力では私は奴にかなわぬ。力としては闇の力を源とする奴の暗黒魔術の方が格段に強い。だが魔力に打ち勝てるのは何もより強い魔力だけではないのだ」 「では何をもって立ち向かえと」 「人の意志の力こそ、闇の力に打ち勝つ最大の力なのだ。もともとブリアトーレの心の中には、闇に付け入られるだけの隙か、あるいは闇そのものがあったのだと私は思う。それがナイに力を与え、そしてブリアトーレの野望を果たさせた。三王子とて同じこと、闇に立ち向かう心構えがない内に、あれだけ強力な闇の力による攻撃に晒されたのだ。ブライス殿下が姿こそ変えられても生きておられるのは奇跡のようなことだ」 「しかし・・・」 「とにかく、今はナイめの動きを監視しつつ、力を蓄えておくことだ」
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