出かけてみようか

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出かけてみようか

 二週間を過ぎても変化はなかった。  それならば。休日の今日、密かにしたためた計画を実行しよう。  私は女の子を買ったばかりのチャイルドシートに座らせ走り出した。向かうは水族館。もちろん、お絵描き道具も持ってきている。  水族館に着いて入場券売り場に並ぶ。私達の前には十人程が列を作っている。みんな親子連れだ。  午後一の陽射しは冷たく眩しい。珍しい冬の晴れ日。イルカショーは外せないな。  そんなことを考えていると順番がきて、私は堂々と口にする。 「大人一枚と子ども一枚お願いします」  ガラスの向こう側に一瞬沈黙があった。まずい。不自然だっただろうか?   それでも「はい。大人一枚、子ども一枚ですね。合わせて二千百円になります」と返ってきたので、私は胸を撫で下ろした。大丈夫。私達は親子だ。もう本当の親子でいいはずだ。  私達はペンギンの行進を見てははしゃぎ、イルカショーでは最前列でびしょ濡れになり、それで風邪をひいてはいけないと、熱いラーメンをふうふうしながら食べて、海底トンネルでマンタの白い腹を眺めた。その都度女の子は絵を描いた。そこには常に手をつないだ私達がいた。  夕方の五時になると、辺りはもう真っ暗になっていた。  私の背中で女の子は寝息を立てている。  起こさないように、そっとチャイルドシートに座らせて、家路へとついた。
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