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月が在って、女の子も在った
腰かけられそうな三日月がぼんやりと在った夜。橋の歩道を照らす街灯、色だけは暖かそうな黄色の光の環のなかに、女の子はそっと在った。
初雪がちらつき始めた八時過ぎ。ずりずりと橋を渡っていた私は、橋の中程でその子を見つけた。ピンクのスウェットの上下を着て、欄干に背をあずけてうずくまっていた。年のころは五、六歳だろうか。
「ねえ、どうしたの? 大丈夫かい?」
女の子は私の声に反応して顔を上げた。その顔はとても白く、だが、寒さによる冷たい白ではなく、澄んだ中に暖かさを感じさせるような白だった。そもそも、震えてなどもいなかった。
辺りを見回したが保護者らしい人影もないし、車道には行き交うヘッドライトだけで、路肩に駐車している車もない。
「お父さん、お母さんはいないの?」
私の問に、これも澄んだ大きな瞳で見つめてくるばかりで、何も答えてはくれなかった。
とりあえず、橋のたもとにある派出所に連れていこうと手を差し出すと、女の子は素直に握ってくれた。その小さな手はとてもやわらかくて、暖かった。伝わる熱が私の身体にじんわりと沁みてきた。
そして、私は女の子を連れ帰ってしまった。
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