一話目「でも、私は目を背けた」

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私が何より好きだったのは、というか、三本の指に入るのが、きいちゃんの声、目、笑顔だ。 他にも、私より少し低くて、あっちゃんは背が高いよね、と小柄なのを気にしていた私に言ってくれた背のこととか、フワフワしていて長い髪の毛とか、柔らかそうな頬とか、さりげなくて質素だけどバランスが取れていて爽やかな服のファッションセンスとか、いいところはいっぱいある。 だけどその中でもとくによかったのが、声と目と笑顔だった。 きいちゃんの声はホワホワとソフトで朗らかで、聞いている人を安心させた。 風に乗ってどこまでも飛んでいきそうな声だけど、それは軽やかっていうのとは違うと私は思っていた。 そんな躍動感があって明るいものじゃなく、もっとアッサリさっぱりとしていて、丸くて、声に色があるとしたら淡い薄い色なんだろうなって、そう思わせるような声だったのだ。 そして目は、ちょっと小さめで、私は目が大きくないから可愛くないでしょって言われることもあったけど、絶対にそんなことはないと思う。 小さくても黒目が少し大きくてクリッとしていて、とっても優しい色で、キラキラしていた。 笑うと、目の奥で何か宝石みたいなものがピカっと光るような気がした。 本人の性格をそのままうつしたような、少したれ目で潤みがちの目は、いつだって周りを見ていた。 困っている人や見逃してしまいそうな小さな奇跡を、その瞳ははっきりととらえていたのだ。 そして、一番好きなのが笑顔だ。 太陽のような、とか、向日葵のような、とかそんな明るい感じじゃなくて、もっと白くてピンクだった。 透明感のある白、って言葉の似合う、まさに純真そのものの笑い方。 ピンク色の、女の子らしくて可愛くてほっこりとした顔。 清楚で静かで、華やかって感じはしないけれど、温かくて遠くて、この世の何よりも綺麗で美しい。 それはまるで、花火のような。 一瞬だけ光るんだ。 パアッと花が咲いたように、一瞬、ほんのひと時、ちょっと目を離せばもう終わってしまう。 あっという間で、でも、だからこそ特別で優雅で貴重だ。 そして、とっても眩しい。 それこそ打ち上げ花火みたいに、そっと、艶やかに、質素だけどキラキラと光って、そしてすぐに消えてなくなる。 でも、心の中にはいつまでも残っている、そんな笑顔が、私は好きだった。 きいちゃんのその笑った顔を見たら、疲れも悲しみも吹き飛んでしまう。 体が温まって、心までほっこりとして。 一瞬で、何もかも現れて洗われて、汚いものはなくなるし、何もかもが綺麗になってピカピカと光る。 たった一瞬の奇跡を、花を、きいちゃんの笑顔は見せてくれるんだ。 そう、きいちゃんは、私の太陽で、光で、暗い夜道を照らしてくれる、道案内の街頭で。 目立たなくても、ちゃんと活躍しているし、その活躍を必要以上に自慢したりしない。 ただ、周りを見て、笑って、一番いいことをさりげなく、いつの間にかちゃんとやってくれている。 きいちゃんは、そういう子だ。 そういう友達だったんだ。
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