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「……き。」
心の中で繰り返していた声が、喉まで出かかった。
帽子の下から現れた顔は、本当にきいちゃんそのものだった。
そっくりとか双子とか言うんじゃない。
生まれ変わりでもない。
まるで今まできいちゃんは実は生きていて、魔女の格好をして目の前に現れたという感じだった。
そのくらいきいちゃんに似ていた。
声を掛けられたとき、私はどこかで期待した。
その声があまりにもきいちゃんにそっくりで。
きいちゃんが生きていたのかな、と思って。
帽子の下でふわふわと風に漂う髪も、きいちゃんみたいで。
身長も、ほうきを持つ手が、つまり利き手が左手のところも。
でも、私は違うって知っている。
私はきいちゃんの命が消えて行ってしまうのを、目の前でしっかりと見たのだ。
目に焼き付いた光景。
伸ばした手は震えていて、その手をつかむ親友の手は、もうなかった。
夢じゃないかと思った。
頬をつねってみても、平手打ちしても、自分の髪を引っ張っても、どれだけ自分の体をひっかいても、痛みはあった。
痛くなければ夢だと、痛くなければいいと、どこかで思っていても。
夢なんかじゃない、これは、夢じゃないんだ、現実なんだと、私は思い知らされた。
私を引き上げてくれた手は、電車の下にあった。
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