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こんな時間に外に出ることは滅多になかった。
だけど震えたスマホの画面にうつしだされた新着メッセージと彼の名前に、思わず上着も羽織ることなく飛び出してしまった。
彼もまた、薄着。
なに? と用件を訊く言葉を発するより先に、伸びてきた腕に寄せられて、そしてこの状況ができていた。
だけど待って。頭はついて行ってない。
「大切な用、って言ってた」
「うん、そうだよ。大切な用」
「大切な用がこれ?」
「そうだって言ったらめちゃくちゃ怒るでしょ?」
「当たり前」
ふふ、と柔らかく笑う声が、ちかくで落とされる。
それでまた、ぎゅっと、背中に回された手に緩く力が込められる。
冷たい外気が髪を撫でるけど、ゆっくりと触れる彼の手のひらの温度にこころが震えた。
……苦しいな。
なんて思ってること、知らないだろうなって、思ってしまって抱きしめ返すことができない。
ただ、いつもよりずっと、日のひかりが温かかった気がする。
「なにかいやなことでもあったの?」
「……あんたの家が俺の家とだいぶ距離があんの、いつもおもうんだけど嫌でたまらない」
「そーいうんじゃなくて、」
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