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普段のゆるい掛け合いを先に苦笑したのは私だけど、彼はちょっと拗ねた口調で「ほんとのことなんだけど?」と言った。
「私だって、この状況が本当に嫌だよ。すっぴんだし髪もまとまらないし急いで出てきましたって感じで防寒もしてないの。あ、あと寒いしっ」
「だいじょーぶ。あんたは素のほうが可愛いし、いま俺が温めてあげてるでしょ」
あ、その意味合いなのか、と胸にすとんと落ちてきた。
それでも、嘘偽りが無さそうな模範解答でも、
どうせこの人は、素直になってない。
「じゃあ、顔、見せて」
「ヤダ」
わがままでときどき手がつけられない甘えたを発揮する彼に胸が鳴りながらも、負けられないとばかりにがんばってみる。
数分ほど粘ったところ、ようやく諦めてくれた様子で溜め息を吐き出す彼の顔はどこか満足げだった。
「なんで笑ってるの?」
「ん? んー、なんでだろうね」
身を捩って彼の拘束をといて、ちかい距離で笑う彼の両頬を両手で挟む。
端正な顔立ちなのに、なんて酷い顔。
と思わず笑ってしまった。
「あんただけだよ。俺のこの顔を引っ張ったり潰したりすんの」
「いやならやめ……る努力くらいはするよ?」
「んーん。いいや。あんたにならなんでも許したくなるんだよね、俺」
「えこひいき」
「それを “ とくべつ ” って言うんだろ」
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