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心臓に悪いと訴えれば、渋々離れていく彼に高鳴る胸をぎゅっとおさえつけた。
「もう、本当にどうしたの? いつもよりだいぶ変だよ?」
「彼女に “ いつもよりだいぶ変 ” って言われた俺の気持ち考えてみて。超泣きたくなるから」
「てきとうなこと言って……、」
そこまでショックじゃないくせに、と続ければ、困ったような表情を含んだ笑みを向けられる。
名前を呼ぶと、彼は曖昧な返事をしたあとに、またちかづいて私の額に口付けた。
だけど体を離したとき、今度はもっとやさしい顔をしていて。
「ねぇ、ゆの」
「なに?」
ゆの、と私を愛称で呼ぶとき、
彼は決まって短く息を吐き出す。
胸奥が、変にざわめく。
だけどそれを払拭するような微笑みが、ゆの、とまたいとおしそうに呼んで抱きしめてきた。
「俺さ、」
「うん」
「大学、受かったじゃん」
「、うん」
「だからね、家から通えないんだよね」
「県外だからね」
「そーね。ひとり暮らししなきゃいけないんだよね、俺」
「……、」
こまるなぁ、って思う。
こまるなぁって思うから、ずっと離せなくなる。
だから、と理由付けしてぎゅっと服をにぎりしめてみると、髪を撫でられた。
「ねぇ、ゆの」
「なに?」
「一緒に来てくれる?」
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