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少しでも彼の力になりたくて、色々なことを試してみた。目を瞑り、あたかも目の前に弘嗣がいるかのようにしてやってみたり、弘嗣がいる神奈川県の方角を向いてやってみたり、弘嗣が部屋に忘れていったボクサーパンツに触れながらやってみたりした。だが、結果は全て失敗だった。
神奈川と仙台は遠かった。というか、目に見える位置にいてくれないことにはあの能力は発動してくれなかった。
弘嗣は毎回パソコンの画面の向こう側で、一人で激しく動き、一人で果てた。そんな彼を見て、私は無力感を募らせた。
私なしでも彼は一人で楽しくやっている。そのことがとても辛かった。
そんなある日、私はほんの悪戯心から、弘嗣のボクサーパンツを穿いてパソコンの前に座った。それを見てちょっとでも彼が興奮してくれれば、という軽い気持ちだった。
ボクサーパンツを穿いてみて、不思議な感覚に包まれた。それまでになく彼を身近に感じた。今なら出来そうだという不思議な感覚。私の感覚が何かを捕まえた。懐かしい、その感覚。
画面の向こう側の弘嗣の表情が変わった。目がとろんとして、歓喜に包まれるその表情には見覚えがあった。この部屋で弘嗣が何度も見せたその表情。それを、パソコンの向こう側の弘嗣がしていた。
私は今、完全に弘嗣に触れることが出来ていた。無我夢中で弘嗣に触れた。すると、ほどなくして弘嗣は逝った。逝ってしまった。彼の瞳から、一筋の涙が流れた。それを見て、私ももらい泣きしてしまった。もらい泣きのうれし涙だった。
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