Section 16 強姦

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Section 16 強姦

 翌日の月曜日。朝カーテンを開けて外を見ると爽やかとはいえない薄暗い空。部屋にはポツリポツリと雨音が響く。一週間のうちで一番憂鬱な月曜日の朝の気分をそのまま表現したような感じだ。学校へ行くための身支度もなかなか進まない。 「七海、遅れるよ」 と毎朝の日課のように母の声がする。やっとの思いでダイニングへ向かうと、外からは姉の車のエンジン音が聞こえた。 「お姉ちゃんもう仕事行ったんだ」 私が食事をしながら呟くと、「七海と違って支度が早いのよ」と母は答える。私的にはいつも姉と比較されるのは凄く嫌だ。でも、母親はいつもこういう言い方をする。マイペースな私も悪いとは思うけど、姉と私は違う人間だ。いつも同じ様に出来る筈がない。これでも昔よりは早くなったのに。こんな愚痴を頭の中で溢しながら、食事を済ませて小声で「行ってきます」と言って登校をする。  雨の中急ぎ足で駅に向かう社会人の方々とは逆に、私は重い足取りで学校に向かう。 学校ではなくこのまま何処かに行ってしまいたい。登校中に何度そう思っただろうか。でも、私にはそれを実行する勇気は無かった。いつ もそんな事を考えているうちに学校に到着する。しかし、この日は少し違った。私がいつも使っている通学路は道中で広い公園の中を通過する。その公園をいつものようにトボトボと歩いていると、何処からともなく現れた少し年上の男性に声をかけられた。 「可愛いじゃん。今から登校?」 男性は私の進路を塞ぐように目の前に立ち塞る。 「何だ洋平、朝からナンパかよ」 近くにいた仲間と思われる男性はにやけながら こっちの方へ歩み寄って来た。  恐怖で声も上げれない私は周りを見渡してみたが、人通りの少ない林の中の公園の通路。人が少なくて静かな感じが好きだったけど、この時ばかりは周囲に誰もいないのが災いした。 「学校遅刻するので」 私は勇気を振り絞って男性達に伝えた。そして回り込んで、走って逃げようとしたが、歩み寄ってきたもう一人の男性に取り押さえられた。私は、口を塞がれ、男性達に連れられるままにワンボックスの車の後部座席に乗せられたのだ。   【降ろして下さい】 私が男性達に声をかけたが、男性達は聞く耳を持たず、運転手である洋平という男性は「学校より楽しいところに連れていってやるからよ」と言って車を走らせる。 「ワガママ言うなよ」 もう一人の男性は私の胸に手を回して、恐喝するように耳元で囁いた。 【やめて下さい】 胸を触られた私は全力で拒絶すると、男性の私に対する圧力は強くなった。男性は私の制服のシャツを破り、直に胸を触り始めた。 「優しくして欲しかったら大人しくしな」 男性はそう言って下着の中に手を入れる。それはよりエスカレートしてスカートの中にも手を回し始めた。男性経験などない私は最早思考する事は出来ず、発狂して泣きじゃくった。 「煩いぞ! この女」 「大人しくしろと言っただろ」 助手席にカメラを置いてそれを撮影する運転手の男性は「俺はその方が熱くなるけどな」と言ってルームミラー越しに私を見ていた。 「おい卓也。脱がしちゃえよ」 「いい()が撮れるかもよ」 運転手の男性はそう提案すると、私の隣にいる卓也という男性は私の下着を強引に破り初めた。その時の私はもはや抵抗も出来ず、ただただ苦痛に耐えるしかなかった。 「おいカメラもっと近づけろよ」 「キレイな身体してやがるぜ」 卓也はそう言って洋平を挑発した。 「そう焦らすなよ。今やるからよ」 洋平は片手でカメラを持ち私の股間の前に置いた。  その時である。後方からサイレンの音が聞こえた。 「ヤバいな。パトカーだよ」 「どうする?卓也」 洋平はルームミラー越しに指示を仰いだ。 「そんなのフケるっきゃねぇだろ」と卓也は余裕の表情だ。サイレンの音を聞き僅かな希望が見えた私は、全力で抵抗をして叫んだ。卓也はそんな私の顔とみぞおちを殴り、「殺されたくないだろ」と言って脅してきた。殴られた痛みで噎せかえっている私の顔をみるや、再び殴り力任せに私を静めようとする。  川を渡る橋があるせいか、国道は比較的橋の前で渋滞をする。どうやらこの二人はそれを知らないようだ。 「くそー」 「何だこの道渋滞してやがる」 洋平はかなり焦っているようだ。イライラが重なり、クラクションを鳴らし続けるが、前方は一向に空かず、パトカーもすぐ後方に密着していた。抜け道は無く、道を塞がれた二人は車を降りて走って逃げようとしたが、外には既にパトカーを降りた警察官が待機しており二人は断念。殴られた痛みで出血もしていた私は声も出せず、安堵したのか、意識が朦朧としてきた。   「七海!大丈夫?」 「わかる?お母さんよ」 目が覚めると、母が真横で私を心配してくれていた。キョロキョロと辺りを見渡すと、ここが病院だということはなんとなく理解した。 「ここは病院?あれから何があったの?」 意識の無かった私は状況を確認するべく母に尋ねた。 「七海は車の中で意識を失っていて、救急車で運ばれたのよ」 「今お父さんとお姉ちゃんは警察の方とお話をしているわ」 母は寄り添って答えてくれた。 「お父さんもお姉ちゃんもみんな来てくれたの?」 周りに家族がいて嬉しいあまりに、私は母に視線を送る。 「あたりまえじゃない」 「娘が犯罪にあって心配しない親はいない」 母は優しく語りかけるように言った。 「そっかー」 「お母さん」 「私……怖かったよ」 私は母の胸で号泣した。恐怖からの解放と、家族に包まれた安心感からか涙が溢れてくる。それに対して母も私を優しく抱き締めてくれた。 「お母さん、七海の様子はどう?」 その時、警察で話をしていた姉と父親が帰ってきた。 「意識は戻ったわ――でも、ショックが大きいみたいでこの感じ」 母は涙が止まらない私を抱き締めながら姉に伝える。 「七海、大丈夫か?」 父親は私の肩に手を置いて安否を確認したが、男性特有の力強さは今の私には恐怖でしかなく、発作のような身震いをして、再び私は意識を失った。この時の私は父親でも恐怖を感じるぐらい、男性を受け入れる事は出来ない人間になっていた。 「七海!」 家族が叫ぶ声がうっすらと聞こえたが、私には目を開けることは出来なかった。 再び目を覚ました私は姉と母親に見守られていた。 「七海――目が覚めた」 姉の声に気がついて目が覚めた私は、ふと窓を見ると外は暗くなっているのがわかった。 「また意識失っていたんだ私」 「もう夜なの?」 私は姉に確認をする。 「そうよ。もう20時」 「お昼に目が覚めて、お父さんを見るとまた気絶してしまったの」 「何か温かいものでも飲む?」 「少し水分取った方がいいわよ」 「私買ってくるから」 姉はそう言って鞄から小銭入れを取り出した。 「ありがとうお姉ちゃん」 「なら、温かい紅茶をお願い」 そう姉の方へ向いた途端に、ズキッと身体に痛みが走る。 「痛っ」 私は思わず胸を押さえた。 「無理しちゃダメよ七海」 「骨折れているんだからね」 母はそっと私に布団をかけてくれた。 「今日はゆっくりと休みなさい。元気になったら警察の方とお話をしなければならないわ」 「嫌だ」 「知らない人……怖い」 「もう話したくない」 私は思い出すのも嫌で、とても警察と話をする気分にはなれなかった。 「お母さん――ちょっと」 姉は母を呼び何かしら伝えている。 「七海」 「今日は私とお母さんも病院に泊まるからさ」 「何かあったら言ってね」 「ちょっとお母さんと買い物してくる」 姉は母を連れて病室から出ていった。姉は私に気を使ってわざと一人にさせたのだ。この時の私は虚無感に満たされていて何も考えることは出来なかった。ただ人が怖い。元々内向的な私だったけど、この日を境に人との接触を一切避けるようになる。今思い返すと、母と姉とは会話が出来ることが、唯一の救いだったのかもしれない。
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