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白い息を吐きながら、僕は聖ニコラスと呼ばれる小さな苗木の前に立っていた。苗木は焼け焦げた幹の間からぴょこりと小さな顔を出している。
鮮やかな緑色が、苗木の若さを物語っていた。僕は苗木に語り掛ける。
「ただいま、仕事終わったよ」
木が答えるはずはない。それでも僕は語り続けた。村を出てからどんな生活をしてきたか、誰と結婚して、どんな家族を築いたか――
毎日毎日飽きもせずに語りかけるのだ。
「僕はようやくあんたの気持ちがわかるような年になってきたよ。まだまだ若造だって言いたいんだろう? でもさ、見た目はずいぶんあんたに近くなっただろ?」
聖ニコラスの木を風がなでていく。ほっそりとした弱弱しい幹が、ゆらゆらと風に揺れた。
この生まれて間もない聖ニコラスの木もかつては、大きな大きなモミノキだった――
それは、何年も何年も前のこと──
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