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僕の育った村は大きな国の端っこにあるド田舎だった。農業以外に大きな特徴のない村のシンボルと言えば、丘の上に立つ立派なモミノキだ。このモミノキには一人の精霊が住み着いていて、人々はこの木とその精霊を守り神のように崇め奉っていた――というのは少し言いすぎだろう。精霊とモミノキを、村のみんなはとても愛していた。親しみを込めて人々は精霊のことをこう呼んでいた。
聖ニコラス――
モミノキは樹齢何千年という大木で、ニコラスはそれと同じくらいの年齢だと言っていた。精霊の中では若い方なのだそうだ。
外見は二十代後半くらいで若々しく、精霊のくせに人間臭くて、そしてなによりも僕たち村人のことを愛してくれていた。
年に一度、クリスマスの夜になると聖ニコラスは村の人全員に祝福を与え、村の繁栄を支えてきた。繁栄と言っても、細々としたものだけど、聖ニコラスのおかげで村人は皆幸福な毎日を送ることができていた。
村の誰もにとってかけがえのない存在――僕にとっては、もっと特別な存在だった。
僕は、このモミノキの下に置き去りにされた赤子だった。
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