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学校終わりの昼下がり、僕は白い息を吐きながら道をかけていた。今夜はクリスマス、村中がいつも以上に活気にあふれている。
まだ歩きもしない赤ちゃんから、いつもはロッキングチェアで転寝をしているばあちゃんまで、みんな楽しそうにクリスマスという一日を祝う。
「ただいまニコラス!」
クリスマス飾りに彩られたモミノキに声をかけると、木の上から「おかえり、ヨハン」――と声が降ってくる。見上げると、太い枝の上に真っ白な布がはみ出ているのが見えた。ニコラスが寝転がっているのだろう。ニコラスは木の上で眠ったって落っこちるようなことはない。
僕がニコラスを見上げていると、トンっと軽やかな足音とともにニコラスが下りてきてくれる。背の高いニコラス、さらさらとした金髪に青い瞳――見た目の年齢は友達の一番上の兄ちゃんくらい。
ニコラスは僕を見ると、にっと目を細めて、僕の栗色の髪の毛をくしゃくしゃとかきまぜてくる。
「ちゃんと勉強してきたか?」
「ぼちぼち」
「あはは、それくらいでちょうどいいな、子供はたくさん遊べ、遊べば遊ぶほど大きく成長する」
ニコラスは、いわゆる僕の保護者だ。モミノキのもとに置き去りにされていた僕を、不器用ながらも育ててくれている。モミノキのそばに建てた家でニコラスと暮らしている僕は村のみんなに可愛がってもらっていたし、ニコラスがいてくれるから、親の居ない寂しさを感じずにいられた。
むしろ、ニコラスに育てられているということは僕の誇りだったのだと思う。
でも、父さんって呼ぶのは少し気恥ずかしい。
「ニコラス、今日はクリスマスだよ」
「村中が活気づいてるな、おまえも遊んでこい」
「アリアたちと約束してるんだ、後でお土産持ってくるから」
「楽しんで来いよ、あまり遅くなるな、暗くなれば獣が騒ぐ」
「わかってるよ!」
ニコラスは宿っている木から離れることができないのだそうだ。だから、村のお祭りを近くで見ることはできない。
クリスマスの日は村中が沸き立つ。あちこちで露店が開かれ、子供たちにはお菓子が配られた。
夜になれば明かりが灯る。光の精霊に彩られた村は幻想的だ、その中で一層光を放つのが聖ニコラスのモミノキ――
人々はモミノキのもとに集まってニコラスに祈りを捧げ、ニコラスは人々を祝福する――
この時ばかりは、いつものらりくらりとしたニコラスも精霊然として厳かな空気を纏う。
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