妻が急に優しくなった

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こんなにも妻が全身で喜びを表現することも初めてだった。 どのような食事を食べても、どのような場所に行っても、喜んでいるのか、つまらないのか。 つつましさというのだろうか、妻は自身の感情を表すことを余りしない人だった。 それだけとても嬉しいのだろう。 その喜ぶ妻の姿に私も嬉しい気持ちで高揚するも束の間、罪の念が私を覆った。 この結婚生活の中で、どれだけ妻に寂しい思いをさせてしまっていたのだろう。 私の高揚した気持ちは罪の念によってじわりと冷やされた。 私はインスタントコーヒーをカップに開けて、妻が温めたお湯を注ぐ。 両手で持つカップからじんわりと掌が温まる。 「それでね…」 妻が意気込んだ表情で言う。 「ん?」 私は伺う。 妻はとても言いづらそうにしている。 言葉を選ぶように妻が口を開いた。 「今すぐに、行きたいの」 妻はそっと、一言、一言、置くように言った。 「でも、私は仕事があるし…」 私はカップを口元につけて、コーヒーに言った。 コーヒーの水面はその言葉に揺れ動き、ほろ苦い匂いが立つ。 妻は沈黙した。 揺れ動くコーヒーの水面が私をけしかける。 これまで、妻には沢山の我慢と無理をしてきてもらった。 だからこうして私は夜に帰れば、夕飯があって、着たい時に服が洗ってあった。 使いたい時に使えるように揃っていたのも、妻のお陰だ。 「今すぐ行きたいの!」 妻の激しい口調はコーヒーの水面を大きく揺れ動かした。 リビングの壁に妻の声が跳ね返る。 妻は両手に握りこぶしを作って、俯いている。 その妻の姿に私の意思は固まった。 私はカップをリビングテーブルに置き、妻の背から抱擁した。 「わかった。行こうか。明日、上司に有給休暇を貰えるか、お願いしてみるよ」 妻の体は固く緊張していた。 「ありがとう」 妻の声は少し震えていた。
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