4.304号室

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4.304号室

 待望の夜が来た。窓の外は濃密な黒。時々、どこかで打ち上げられた花火の光がチラつく他は、明かり一つ見えない完全な暗闇だった。  ベッドのスプリングがギシギシいう音がやたらと頭に響く。見上げる先には虚ろな瞳と半開きの唇をしたアサミがいる。アサミは上下に、時には前後に動き、ようやく休んだかと思うと、今度はトルネード投法?のように身体をグリグリひねったり急にのけぞったりする。その繰り返し。さらに続く。  僕とアサミは一点において結びつき、そこ以外の全ての部分で離れ離れだった。僕もアサミも、始めてからひと言も口をきいていない。僕の身体は自由なはずだけど、形而上学的な意味で鎖に縛られてるみたく自由じゃなかった。別にそうじゃなくても、僕は動く気なんか、これっぽっちもありはしなかったけれども。  アサミは素晴らしかった。最初から最初じゃないみたいに自信に満ち溢れていて、ずいぶんとヒワイな形をした部分部分をえらく官能的に駆使してきた。僕はコレのどこが楽しいのか、まるで見当もつかずに、仰向けになったまま、映画でも見ているような気持ちで、じっと見ていた。  こんなはずじゃない。こんなはずじゃなかった。何かが違ってる間違ってる。いったいどうしてこんなに意識が冴え渡っているんだろう。地震はもう耐え難いくらいに揺れてるっていうのに。  有無を言わせぬ激しさに、この抵抗し難い野蛮なまでの暴虐に、僕はなす術無く身を委ねて、時折、襲ってくる、あの白々しい羞恥の瞬間に耐えるしかなかった。僕は打ちのめされていた。僕は、僕は……。  それでも僕は、この暑い夏に恋い焦がれていた。たぶんずっと以前から、この先、何年でも、きっとそうなんだろう。気持ちいいし。
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