ありふれた言葉

1/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 3月は別れの月だ。俺が(さくら)先輩と会えなくなったのも、4年前の3月。ちょっと意地悪で、でも優しくて、どこまでも笑顔の似合う人だった。  あれからもう4年。あの頃ひねくれた中学2年生だった俺は高校を卒業し、来年から大学生だ。1人暮らしの準備に追われる中、引き出しの奥から出てきたのは、1冊の可愛らしいノート。桜先輩と交代で日記を書いていたノートだ。  パラパラとページをめくると、桜先輩の女子らしい丸文字と、いかにも中学生男子といった俺の汚い字が交互に流れていく。どのページにも絵や文字でびっしり書き込まれているが、最後の1ページだけが、白紙のままだった。  本当なら俺が書くべきページ。今さら何を書こうが、絶対に桜先輩に届くことのないページ。一つ前にめくったそのページも、やはりびっしり文字で埋め尽くされているが、1番下の行には、桜先輩の丸文字で【さよなら】と書いてあった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!