出会いは唐突に

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出会いは唐突に

 今日は家でレポートを仕上げなくてはいけない。  大学内の図書館でやってもいいのだけれど、そこだと館長をやっている理人(りひと)が気になって全然はかどらないから。  葵咲(きさき)は理人に、今日は彼を待たずに先に帰宅する(むね)をメールすると、恋人が帰ってくるまでに課題を終わらせるぞ!と気合を入れた。  理人との同棲生活は思いのほか楽しくて……毎日が笑顔とトキメキで一杯だ。  でも――。  さすがに毎日あんなに求められると、そのまま寝落ちしてしまって困る。  いや、決して求められるのが嫌なわけでも、理人と一緒に眠ったりお風呂に入ったりするのが嫌いなわけでもなくてっ。  というか、それらに関して言えば……、 「むしろ大好きっ……!」  理人が、葵咲にしか見せない艶っぽいあれやこれやを思い出し、思わずうっとりと声に出して力説してしまってから、ここが外だったことを思い出した葵咲は、にわかに慌てる。  真っ赤になって、「きゃー!」とつぶやきながら自分の両頬(りょうほほ)をペチペチしたところで、ふと視線を感じた。  マンションの敷地内……それも周りからは死角になったピロティ内に入っていたので油断してしまったけれど、そこに先人がいたならば話は別なわけで。  葵咲は、ハッとして気配のしたほうを見遣る。 (わわっ、人、いたのっ!)  理人との嬉し恥ずかしなあれやこれやを思い出して一人百面相になっていたところを、見知らぬ男性――二十代後半くらいかな?――に見られてしまった。
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