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「ちょっ、葵咲、何これ……」
無表情で箱の中を見つめる理人に小さくそう言われた瞬間、葵咲はてっきり怒られているんだと思った。
「ご、ごめ……」
それで謝ろうとしたら、箱を覗き込んでいる理人から「めちゃくちゃ可愛いんだけど!」という声が聞こえてきて。
言いながら、理人がデレッとした顔で箱の中身を抱き上げる。
「僕、猫すごく好きなんだよね」
母親がアレルギーで飼ってもらえなかったんだけど、と言いながら真っ黒な子猫の小さな足の裏を鼻に当てて、肉球のにおいを嗅ぐ。
「このにおいがね、好きなんだ。こう、なんて言うかキナ臭い感じが堪らないっ!」
葵咲は理人のデレデレした反応にうまく順応出来なくて、押し黙ったまま、危うく思考停止に陥りかけた。
「あ、あの……理人?」
恐る恐る呼び掛けたら「ん?」とすごく嬉しそうな笑顔でこちらを向かれて。
「あ、あのね……理人、その子、うちの子にしても……」
言い終わらないうちに「え!? この子、飼い主いないのっ!? 葵咲がいいなら僕は大歓迎なんだけど!」と即答された。
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