葵咲、服脱いで?

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葵咲、服脱いで?

 いきなり理人(りひと)に手首を掴まれて、葵咲(きさき)は瞳を見開いて驚く。 「理人?」  先刻、逸樹(いつき)に謝罪の言葉を投げかけられた時、葵咲は始終不機嫌そうだった彼が謝罪してきたことよりも、理人の目の前で謝られてしまったことの方にドキッとした。  その瞬間の理人の表情は、葵咲のほうからは死角になっていて(うかが)い知ることはできなかったけれど、ほんの少し理人の肩がピクッと動いたのは見えた。そのことに一応に不安は覚えたのだ。  でもさすがにこんなにストレートにくるとは思わなくて。  葵咲の方へ近づいてきた時の第一声が、「セレの名前の由来、分かったよ」だったとき、正直杞憂(きゆう)だったかな?とホッとした。  でも、理人は多分葵咲のその反応を見逃さなかったのだ。 「葵咲、服脱いで?」  有無を言わせぬ調子で理人がじっと見つめてくるのを、葵咲はヘビに睨まれたカエルになったような気持ちで見返した。  リビングの箱の中に子猫(セレ)がいると思うと、ここで服を脱いでしまうのはどうしても躊躇(ためら)われて――。  それに子猫のためのグッズだってまだ(そろ)えていない。  今、ここで理人の言う通りにしてしまえば、きっとそう言うことに発展してしまうのは容易に想像がついたし、そうなればホームセンターの営業時間に間に合わなくなってしまう。  理人からふと視線をそらして壁にかかった掛け時計を見ると、時刻は19時半を過ぎたところだった。  葵咲が送信した意味深なメールのおかげで、いつもより理人の帰宅が気持ち早かったとはいえ、近場のホームセンターは確か二十一時には閉店してしまう。 「あ、あのっ」  理人をじっと見つめながら、葵咲は一生懸命考える。 (どうすれば、現状を打開できるかな?)
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