葵咲、服脱いで?

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 葵咲(きさき)に服を脱ぐことを強要してきた時点で、理人(りひと)の手は葵咲の手首からは離れていた。  葵咲は唾を飲み込むと、半歩ほど理人との距離を削って目の前の彼にギュッと抱きついた。  途端、理人が息を呑んだのが分かって。葵咲はこのあと己が取るべき言動を慎重に模索(もさく)する。 「あのね、理人。先にセレの……あの子のための道具を揃えてから……じゃダメ、かな?」  そこで理人を上目遣いに見上げると、フイ、と視線を外してリビングの箱へと流す。 「お店、閉まったらセレ、可哀想だよ? ベッドもご飯もトイレもまだちゃんと用意出来てないもの……」  帰宅直後、デレッとした顔で子猫を抱き上げた理人を思い出しながら、葵咲は慎重に言葉を選ぶ。  セレ、セレ、セレ……。子猫のことを思い起こさせたら、理人は踏みとどまってくれるんじゃないかと思った。 「……葵咲」  呼びかけられて、葵咲は彼の服をギュッと握ったまま、理人を見上げる。 「どこでそんなの覚えたの?」  理人の顔を見上げるために上向けた(あご)に片手を添えるようにされて、半ば強引に唇を塞がれる。 「んっ」  理人にいつもより強く舌を吸い上げられて、葵咲は思わず彼にしがみついた。  ベロの痛みと一緒に、背骨に沿ってゾクゾクとした快感が走って、足の力が()えてしまう。 「――でも残念。葵咲は僕の優先順位がまだちゃんと分かっていないみたいだ」  ペロリと葵咲の下唇を舐めた後、チュッと音を立てて吸い上げると、理人が葵咲の瞳をじっと見据えてつぶやく。 「もう一度言うね? 葵咲、服、脱げよ」
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