葵咲、服脱いで?

3/4
827人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
 ただ一度口付けられただけ。  それだけなのに、葵咲(きさき)(ほほ)はほんのりと上気して、唇から漏れ出る吐息も熱を(はら)んだように熱く感じられた。 「理人(りひと)……」  潤んだ瞳で理人を見上げるけれど、彼は許してくれそうになくて。  今、理人から離れると、途端その場にへたり込んでしまいそうに足が覚束ない。  葵咲は理人の服をギュッと握ったまま、小さく深呼吸をした。  一縷(いちる)の望みをかけてもう一度理人を見上げてみたけれど、彼の気は変わりそうになくて。  葵咲は恐る恐る理人から手を離すと、何とか自力で立った。  そうして観念したように前開きのシャツワンピースのボタンに手を掛けると、震える手で上から順にひとつずつ外していく。  途中もう一度だけ理人を見つめると、彼は葵咲を無言で見つめ返してきた。その表情だけで、理人がすごく怒っていると分かった葵咲は、ボタンをウエストの辺りまで外してから、そろそろと(そで)から右肩を抜いた。  でも、左腕は――。ちゃんと確認はしていないけれど、触れると少し痛むので、もしかしたら逸樹(いつき)に強く握られた部分が、(あざ)になっているのかもしれない。  もしそうなっていたら――。理人はどういう反応をするんだろう。  葵咲はそれを知るのが怖くて、左腕をワンピースの(そで)から抜くことができず躊躇(ためら)ってしまう。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!