827人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
ただ一度口付けられただけ。
それだけなのに、葵咲の頬はほんのりと上気して、唇から漏れ出る吐息も熱を孕んだように熱く感じられた。
「理人……」
潤んだ瞳で理人を見上げるけれど、彼は許してくれそうになくて。
今、理人から離れると、途端その場にへたり込んでしまいそうに足が覚束ない。
葵咲は理人の服をギュッと握ったまま、小さく深呼吸をした。
一縷の望みをかけてもう一度理人を見上げてみたけれど、彼の気は変わりそうになくて。
葵咲は恐る恐る理人から手を離すと、何とか自力で立った。
そうして観念したように前開きのシャツワンピースのボタンに手を掛けると、震える手で上から順にひとつずつ外していく。
途中もう一度だけ理人を見つめると、彼は葵咲を無言で見つめ返してきた。その表情だけで、理人がすごく怒っていると分かった葵咲は、ボタンをウエストの辺りまで外してから、そろそろと袖から右肩を抜いた。
でも、左腕は――。ちゃんと確認はしていないけれど、触れると少し痛むので、もしかしたら逸樹に強く握られた部分が、痣になっているのかもしれない。
もしそうなっていたら――。理人はどういう反応をするんだろう。
葵咲はそれを知るのが怖くて、左腕をワンピースの袖から抜くことができず躊躇ってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!