*僕はそれを我慢できない

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 葵咲(きさき)は、時折こんな風に理人(りひと)を困らせることがある。  いや、困らせるというより理人の手に負えなくなるというべきか。 「葵咲っ、ちょっと待っ……! ん、あ……っ」  結局、負けてしまったのは理人で――。  抵抗(むな)しく葵咲の中で半ば(しぼ)り取られるように果てると、理人は肩で大きく息をする。  そもそも避妊しているからといって、理人は葵咲の中で出すつもりはなかったのだ。  自分の不甲斐(ふがい)なさに、はぁっと大きく溜息をつくと、中身が()れないよう慎重にゴムの付け根を押さえて葵咲の中から自身を引き抜く。と、その感触に葵咲が「ぁんっ」と小さく(あえ)いだ。  そうして、うっとりと理人を見つめてきて。 「……葵咲?」  その視線に思わず問いかけると「理人、私ね、貴方が私の中で果てるときの、声が好き……」とか、とても正気の時の葵咲からは考えられない発言をする。  きっと、今でもまだ彼女は冷めない熱に浮かされて、ハイなままなのだ。 (――当たり前だ。僕だけイって、彼女はイけてない)  理人は処理し終えたスキンをごみ箱に放り込むと、葵咲に向き直った。 「葵咲、ベッドに行こうか?」  葵咲の身体を抱え上げると、理人は自身の反応から、葵咲相手では自分も一回イッたくらいでは満足できないことを思い知る。  「自粛(じしゅく)」という二文字が再度頭の片隅をかすめたけれど、理人はもう一度「無理」と上書きをして、気づかないふりをした。  風呂には、後程――数時間後?――いつも通りふたりで入ることになるだろう。
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