第1話

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私は和服専門のブランド『Yu-kaku』で雛菊として働いている。 本名は朝倉ひな。 取り扱っているものが和服、それも昔の遊女たちが着ていた様式のものも着るからか、髪結いや男衆など、他の現場では見かけない人が働いている。 しばらく経って私服姿に戻ると、スタッフさんの何人かに挨拶をしてスタジオを後にした。あらかじめ呼んでおいたタクシーに乗り込む。 私服といっても私の場合、袴姿や和服が多い。この国では今では大陸の服装が主流になっていて、私のような和服姿は多少好奇の目に晒されることが多いけれど、四年近くこの仕事をしてきて、和服の方が落ち着くようになってしまった。 窓から外を眺めていると白い建物が見えてきた。救急車が何台か停まり、他の建物より無機質な印象を与える入り口の前に停めてもらい中に入った。 迷うことなくエレベーターに乗り、廊下を進み、突き当りのドアの前に立った。 『503号室 立花 葵』 一つ呼吸を整え、取っ手を引いた。
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