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一.宝探しに来ました。
日本から二度の乗り継ぎを経て約十六時間、太平洋のど真ん中に位置する小さな楽園チャノベ島に、若い男女が降り立った。
「いやー、初めての海外旅行にしては随分な所に来ちゃったね」
「すごいねぇ、マサ君に聞かなかったらこんな小さな島国なんて一生知りもしなかったかもねぇ」
小型機しか利用できないサッカーグラウンド程度の小さな空港は、周囲の大自然との間を隔てるフェンスも無く、見回す四方をいかにもな南国の植物が取り囲んでいる。
「マサタカは研究で何回か来たって言ってたけど、虫取りでこんな所まで来ちゃうなんて、昆虫学者の情熱ってすごいね」
「早くチェックインまで済ませて探しに行こうよ、マサ君が言ってた『チャノベの宝石』っていうの。
『モニ』だっけ?」
「そうだね。
でもやっぱりもっとちゃんと聞いとけば良かったな。
『エメラルドグリーンの美しい外見もさることながら、食べてもものすごく美味しくてねぇ』
だけでわかるかなぁ」
「わかるんじゃないの?
有名な名物っぽい感じの口ぶりだったし、普通に空港の売店で売ってたりして」
期待してゲートを出てロビーを見回すが、一階建ての小屋のような、地方の無人駅並みのその建物には店どころか人影すらも見当たらなかった。
「売店、無いね……」
「っていうかこんな何も無い空港初めて見た……」
日本や海外の主要観光地の空港とのあまりの落差に驚いていると、
「ヘイ!アンドウユウタ!?ニイヤマサヤカ!?」
建物の外からアロハシャツ、ハーフパンツ、サングラス、麦わら帽子という南国定番四点セットを身に着けた色黒の男が陽気な笑顔で近付いてきた。
「あ、ホテルのお迎えじゃないの?」
「はーい!今行きまーす!
ねぇ、あの人に聞いてみようよ!」
大きなキャリーバッグを引きずりながら駆け寄る二人は、男にうながされるままサビだらけのワゴンに乗り込み、男がエンジンをかけるとレゲェ風の陽気な音楽がなかなかの音量で車内に響き渡り、そのリズムに押されるように車が走り出した。
「よろしくお願いします。
……ところで、えと、あの……『チャノベの宝石』……『モニ』って、知ってますか?」
しかし男は音楽に合わせて体を揺らしながら歌を口ずさんでいる。
「あの!?」
少し大きな声でもう一度話しかけてみると男は一瞬背後をちらりと見たが、チャノベの現地語と思われる不思議な響きの言葉でしばらく喋った後、再び音楽に戻った。
「言葉通じないのかな」
「えぇと……そうだね、ガイドブックにも主要なとこ以外じゃ英語も通じないって書いてある……。
チャノベの言葉で『宝石』は……やだ、調べてくれば良かった、載ってない……」
「うぅーん、意外と探すの苦労しそうだね」
「あはは……ま、いっか、小さな島だし一週間もあるんだし、そのうち見付かるよ。
海もあるんだし、バカンスしながらのんびり探そ?」
「そうだね。
……それにしても揺れるなぁ」
舗装も荒い島の道を跳ねるように走りながらも、車は数分後にはこれぞ南国というようなヤシの葉葺き屋根の海上コテージへと辿り着いた。
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