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ニ.仲間が増えました。
チェックインではかろうじて英語が多少通じたが、それでも「チャノベの宝石」や「モニ」という言葉には首を傾げられ、「エメラルドグリーンで美味しい」という説明を添えても同様だった。
「これは……自力でそれっぽいのを探すしか無いかもな」
「うーん、たぶんだけど、フルーツじゃないかと思うんだよね」
二人が話していると、
「何か探してるんですか?」
背後から日本語が届き振り返った。
三十代前半と見える、なんとなくいい所の人っぽいオシャレ髭を生やした男性と、その後ろに男性と同じぐらいの歳と見えるモデルのような女性が立っていて、笑顔で近付いてきた。
「あぁ、日本の方ですか?
そうなんです、良かった、全然言葉が通じなくて……」
「はは、チャノベは独特ですからね。
歴史上どこの大国にも支配されたことが無いから、欧米の言葉でもほとんど通じないんですよ。
何をお探しですか?」
「えぇと……『チャノベの宝石・モニ』って知ってますか?」
「『チャノベの宝石』……『モニ』……ですか……?
いやぁ、チャノベには何度も来てますが聞いたこと無いですねぇ。
まぁここは南国楽園、ほとんどの物が宝石みたいなものですがね。
なぁ、キョウカ」
「そうですわねぇ、タクミさん、ふふふふ……」
首や耳や指に、過度に目立たないながらもあからさまに高そうなアクセサリーを輝かせ、ワンランク上的な雰囲気を醸し出して見つめ合い笑う二人に、ブランドなどとは無縁のラフな格好のユウタとサヤカは若干気後れし、無意識に一歩後ずさりながら、
「せっかく言葉通じる人に出会ったけど、知らないみたいだね」
「うぅーん、いったん忘れよっか、とりあえず海とか行こうよ」
「まぁねぇ」
などとひそひそやっていると、
「しかし気になりますね、私もぜひその『宝石』とやらを拝見したくなってきました。
よろしければ一緒に探しましょうか。
車もありますし」
「そうですわ、名案ですわねぇ、もうやることもありませんしねぇ、ふふふふ……」
二人のセレブが間を詰めるように数歩近寄りながら微笑んだ。
「え?いや、悪いですよ、お邪魔でしょうし……」
「いえいえ、旅は道連れ、一期一会、袖振り合うも多生の縁ですよ」
「は、はぁ……」
「ねぇ……セレブの暇つぶしの標的にされてるんじゃないの……?」
「っぽいなぁ……どうする……?」
「できればちょっと……」
再び後ずさりながらなんとかやんわり断る言葉を探していたが、
「さ、車はあっちです、行きましょう!」
一瞬で横に並んだオシャレ髭のタクミが肩を組んできた。
「ふふふふ……見付かると良いですわね……。
あぁ、ミノル?
ミノルはどこかしら?」
三人の様子を微笑ましく見詰めていたキョウカが、ふいに思い出したようにゆっくりと周囲を見回し、やがてエントランス奥の小さなラタンの椅子で丸まって黙々とゲーム機を操作している少年を発見し、
「ミノル?宝探しに行きましょうよ。
これもゲームみたいなものよ、きっと楽しいわ。
ねぇ?ミノル?」
優しく呼びかけると、ミノル少年はしばらくの後に
「うん」
とだけ小さく答え、ゲーム機からは目を離さぬまま面倒臭そうに立ち上がった。
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