婚約者

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「ごめんなさい……。聞いておけば良かったですね」 「いや。あと……無理しなくていい」  にこりともしないで、そう言って、柾樹はバスルームに向かった。  くるりと振り返るその姿を見て、美桜はため息をつきそうになった。昨日から柾樹の背中ばかりしか見ていないのだ。  気にしちゃダメ!  まだ、始まったばかりだもの。  知らなくて当たり前なのよ。  これから、少しずつ覚えていけばいい。  今日だって、一つ分かったではないか。  それに寝惚けている柾樹は、ちょっと呆然としていて、きっと本当に朝が弱いのだ。  シャワーを浴び終えて会社に行くための準備を整えた柾樹は、リビングのテレビを付けタブレットを起動させている。  すでに仕事を始めているようだ。 「柾樹さん、コーヒーはいかがですか?」 「無理しなくていいと言っているのに」 「無理はしていません」  柾樹は、ふう……とため息をついた。 「じゃあ、コーヒーはもらうよ」 「はい」  コーヒーの淹れ方には自信がある。  父にも千穂さんにも、太鼓判をもらっているのだ。  美桜は慎重に粉の量を計り、ドリッパーにお湯を注ぐ。  ふわりと粉がお湯を含んだら、さらに湯を追加して、様子を見ながら淹れるのである。 ──ん、よしっ……。 「いい香りだな」 「きゃ……!」
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