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初会
街灯ひとつない田んぼ道を、月の光でわずかにわかる輪郭を頼りにして、側溝に落ちないように気を付けながらぼんやりと歩いている。
暇だというわけではない。
だからといって、時間が余っているというわけでもない。
ただ何となく、何も考えずにぼんやりと外を歩く時間が欲しかったのだ。
(この道も、随分と狭く感じるな)
生まれ故郷なのだから当然だが、ここは馴染みのある道だ。多くの道がアスファルトに埋もれる近年、いまだに土の残された田んぼ道。
あの頃は空を見上げると、夜でも明るかった。星々がそれぞれ精一杯に光っていて、満月の夜ならば昼間と変わらないくらい明るかった。
今となっては夜空を見上げてみても、大きな月ひとつしか目に入らない。それが自分の目が悪くなっただけなのか、本当に星の光が減ってしまったのかは定かではない。
どちらにせよ、見上げたときの寂しさだけは確かなものだ。
(だけど、それでも……あの場所よりはとても気が楽だ)
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