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気ままに歩いていると、人気のない田んぼ道の筈なのに、道の隅っこに誰かが座っている影が見えた。
見えた、といってもはっきりと見たのではなく、ぼんやりと誰かが居る気がした。黒の中に違う黒がある、そんな具合だ。
時間も時間なので、第一には幽霊なのではないかという不安がよぎった。
しかし静かに近づいて目を凝らしてみると、それは確かに人影だ。月明かりに照らされているし、影も薄いながらにある。
自分はアクティブな人間ではない。いつもは誰が道端に居ようが構わずに通りすぎている。昼間でさえそんな調子なのだから、夜中であれば来た道を引き返したり、横道に逃げることも度々あった。
だが今日はこれだけの月明かりを一人で浴びているのは、何だかもったいない気がした。
「あの……何をしているんですか?」
よくよく近付けば、その人物は髪を茶色に染めている女性だとわかった。先程の暗がりでもぼんやりと見えたのは、明るい髪色だったからだろうか。
だが振り向いたその顔は、流石にはっきりとは見えなかった。
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