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「うわっ! びっくりした……」
驚かせてしまった──というのは当然か。誰だって暗闇の中、突然背後から声をかけられたら驚くだろう。配慮が足りなかった。
しかし、自分だったら驚いた拍子に前に転げて、今ごろは田んぼに落ちていたかもしれない。
そう考えると、彼女はわずかに怯んだだけだ。中々に肝が座っているのだろう。少なくとも、自分よりは。
「急に声をかけてすみません。えっと……こんな夜にお一人で、危なくないですか?」
「……ん? …………あれ?」
女性が一人で夜道にいるのが心配、というのは嘘ではない。だけれど、まるでナンパのようだ──というのは、声をかけた後で気付いた。
しかし、女性の反応は予想外のものだ。
騒がないにせよ、軽くあしらわれるだろうと思っていたのだが、どうやら暗闇の中で目を凝らして、こちらの顔を見ようとしているようだった。
「あぁ、ちょっと待ってください。今、明るくします」
ポケットを手探りし、スマートフォンを取り出して電源をつけた。本来の用途ではないが、これひとつでも充分に周囲を軽く照らせる。お互いの顔くらいは、わかるだろう。
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