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先程と変わらないにこやかな笑顔に若干圧が加わったような、そうでないような。
「へえ。よく覚えてるんだね」
「今すぐ処分いたしますのでっ!」
「大事な写真なのに?」
「…いいんです」
沙保は写真を剥がして四つに折って、くずかごに投げ入れた。大事な物なら簡単に捨てちゃだめよ、と写真は彼女の手で折り目を丁寧に伸ばされた後で沙保に返された。
「…だって燈子さん気になるでしょ」
「髪はストレートだし、身長高いし、お菓子なんか絶対作らないし、こんな風には笑えない。…そういうのは気になる」
燈子は自分の長い髪を摘まんでこうつぶやくと、むっつりと目を伏せた。
「聞いといて拗ねないで下さいよ~」
少し俯いた燈子の頬を撫でると、長いまつ毛がゆっくり上を向く。雨に降られたような茶色の目がかすかに揺れていた。頬をたどってつやつやの髪を撫でると、さらりと柔らかい毛先が指の間をこぼれる。
「燈子さんの髪綺麗で好きだし、身長高いのも素敵だし、お菓子なんか私が作るからいいよ」
指先で掬いあげた長い髪に口づけると、今度は照れたように彼女の目が泳ぐ。何も言わずとも、ころころと忙しく移り変わる表情が全てを伝えてくれる。
「…それにね、燈子さんの笑顔で全わたしが幸せになる」
少し尖った唇を啄むと、燈子は頬を染めて視線を背けた。まだ少し困っているようなまゆ毛とゆるみかけた口もとがちくはぐでかわいい。
「…それ一人でしょ」
「ご不満?」
ぐいっと燈子の腰を引き寄せると、ようやく彼女はふわりと蕾が開くように笑った。
「ほらもう幸せ。ちょろいでしょ?」
「ちょろすぎよ、ばか」
燈子が笑うほどに、ワンピースの白地よりもっとまぶしい肩が上下に揺れる。うっすら汗の滲む肌に誘われて、露わになった肩先に口付けると、燈子は一瞬ビクッと震えて睨むように沙保を見据えた。
「だめ。汗臭いって」
沙保はぐいぐい押し返してくる華奢な両手首を掴まえて、そのまま強引に唇を奪った。薄い唇は言葉とは裏腹にしだいに熱を帯びた。
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