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頬の熱さをごまかしたくて沙保はとっさに話題を変えた。少しだけ上ずってしまった声に燈子のからかうような笑みが心なしか深まる。
「じゃあ初恋は?燈子さんなら、よりどりみどりだと思いますけど」
「…小学生の時かな、高校生の従姉妹にね」
「燈子さんに似てる?」
「ちょっとはね。おっとり優しくて憧れだったの。でも彼氏いるって分かって、なんか急に汚れて見えちゃって…」
「よしよし。そういうお年頃だったんですね…」
もう一度頭を撫でると、燈子は少し面白くなさそうに頬をふくらませた。
むすっとしかめた眉の下で、澄んだ瞳が探るようにこちらを見ていてなんだか居心地が悪い。
「何かムカつくなー。知ってるんだからね、」
「なにを」
こういう時の燈子の反撃は、経験上痛い所を突いてくる。これ、と彼女は本棚から一冊のアルバムを取り出した。卒業式で記念に貰った、中学時代の部活での写真を集めたやつだ。その中の一枚を指して燈子は言った。
「だれ」
「うわぁ懐かしい…中学の時の先輩?部活の合宿で撮ったやつ…」
「で?」
「で?それだけですけど」
「やたら距離近いし、二人きりで映ってるの、これだけなんですけど?」
なにか言いたいことでも?、そう言いたげにニコリと燈子はほほ笑んだ。
「…なんで分かるかなぁ」
「沙保のことなら何でもわかるよ」
人の悪い笑みに嫌な予感しかしない。別にやましい事なんか何もないのに、なぜか背すじがピンと伸びる。
うっすら口もとに笑みを浮かべた燈子は今日も今日とて綺麗だけれど、その笑顔が今は少し怖い。
「かわいいね、その人」
「…勘弁してぇ」
「どんなとこが好きだったの?」
「拷問…」
いいから、と笑顔で促されて、沙保はおどおどと話し始めた。
「髪が長くてふわふわで背がちっちゃいところとか…?」
「それで?」
まだ言わせるかと、沙保は燈子をジトッと見つめた。すぐに有無を言わさぬ視線にはね返されたけれど。蛇に睨まれたカエルみたいだ。沙保はもうヤケクソだった。
「…お菓子作るのが上手くて、笑った時に眉毛が八の字になるのがかわいい」
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