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はつこい
コンビニを一歩出ると、ジリジリと全身が焼かれるような日差しが沙保を襲った。背中にかすかに残る店内のひんやりした空気がすでに恋しい。
止めどなく滲み出る汗で地肌と服の境目が溶けて無くなってしまったようにすら思える。日差しから一刻も早く逃れたくて、熱気でむせかえるようなアスファルトを蹴って足を踏み出した。先を急ぐ間にも、ぶらさげたレジ袋の中身が溶けてぽたぽた音を立てるのが聞こえるようだった。
鍵を回して扉を開けると涼しい空気がふわりと全身を撫でた。狭い玄関に脱ぎ捨てられたサンダル、小さなビジューのついた細いストラップのそれはいくどか見かけたことがある。先に沙保の部屋で待ってる、たしか彼女はそう電話口で言っていた。けれど部屋は奇妙にシンと静まり返っていた。
「…ただいま?燈子さんいるでしょー?」
返事がないのが気になって、キッチンをすり抜け部屋を覗くと、涼しげなワンピース姿の長身がフローリングに俯せに伸びていた。
「え、ちょっ燈子さん!?」
「…暑くて溶けそう…」
クーラーのリモコンを握ったままに、伸びきった彼女の肢体はフローリングと同化してしまいそうだ。長い髪に埋もれた頬の白さも心なしか赤みを帯びている。
「うちが事件現場になるところだった…」
「勝手に殺さないでよ」
床に頬をペッタリくっ付けたまま、燈子は視線だけ沙保のほうに送った。手もとに目をとめたのかレジ袋に向かって、床を這うように長い腕がこちらに伸びた。
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