家族

1/1
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ

家族

 そんなお母さんにも良い事だってあったよ。  猫神様はちゃんと愛に溢れた猫を見守ってくれているんだ。一人旅を続ける孤独なお母さんに突然幸せが訪れたんだよ。捨てる人間あれば拾う猫ありで、旅の途中でお父さんと出会い、なんと求婚されて結婚したんだ。  愛は自分が相手を愛したぶん自分に返ってくるんだね。  お母さんが飼い主に見返りのない愛を沢山注いだから、お母さんも父さんから沢山愛されたんだにゃ。    やっぱり大切なのはエゴじゃなくて無償の愛だよ。    結婚した二匹が落ち着いたのが、ぼくが生まれた助六公園。  この公園は小さいけれど緑が豊かで近くに大きな池があるんだ。すごく見晴らしが良くてすごしやすい場所なんだよ。しかも公園の近くには人間の住む家が沢山あるから食べ物にはことかかない。  ぼくはこの公園の草むらの中で五人、いや、五匹兄姉の末っ子として生まれた。お母さんや他の兄姉は白や黒の可愛い毛皮なのに、なぜかぼくだけ父さん似の濃い茶色の毛皮なんだ。  まぁ、そんなことはどうでもいいけど。  生まれて三ヶ月はとっても幸せだったよ。  家族みんな仲が良くて家庭は温かく笑顔と笑い声が絶えなかった。  ぼくの毎日の楽しみはお母さんのおっぱいをお腹一杯飲んでお昼寝をすることかな。ぼくは欲張って沢山飲もうしたから、いつも兄さんや姉さん達と張り合っていたよ。  あんまりぼくが欲張るものだからお父さんに呆れられたっけ。  そんなお父さんからは狩りの仕方を教えてもらうことが楽しみだったよ。  あの頃はほんとにあっという間に一日が過ぎていった。  ところがある日、食べ物を探しにいったお父さんとお母さんは、ぼく達のところに帰ってこなかった。  ぼく達はお腹を空かせたまま日が暮れるまでお父さんとお母さんの帰りを待ち続けたんだ。でも帰って来なかった。  同じ公園にいる猫仲間の間では、ぼくのお父さんとお母さんは、ノラ猫を嫌っている人間に捕まったと噂されていた。しかも人間に捕まった猫は殺されるのだと話すんだ。  ぼくはショックのあまり涙も出なかった。    ぼくは仲間の猫に、 「どうして人間はぼくら猫を殺すの?」  って訊いたんだよ。  すると三毛猫爺さんが、 「わしら猫族が人間の食べ残しを食べたり、道路をうろちょろするから嫌うんだよ」   って答えるんだ。    変な話だよね、ぼくらがもともと住んでいた山や草原に、勝手に家や道路を造って居座ったのは人間だよ。食べ物がないときぐらい道路脇のゴミ袋の中の食べ物を少しだけ分けてくれてもいいじゃないか。  茂みと茂みの間を道路が遮っているから危険を覚悟で渡っているんだ。僕らだって車が沢山行き交う道路なんて恐くて渡りたくないよ。  それにぼくら猫同士はみんな助け合って生活しているのに、どうして人間はぼく達と助け合おうとしないんだろうね?  人間同士じゃ困った時はお互い様って言ってるのにさ。食べ物がない時は分けてくれてもいいと思うんだけど。その代わりぼくらが人間を癒してあげるのに。  お互い様だからね。  その点、同じ人間でも古代エジプトの人間は優しかったなぁ。ぼくら猫をすごく大切にしてくれた。なにしろバステトという猫神様として崇められていたほどだからね。  古代ギリシアの歴史作家ヘロドトスは古代エジプトのことを書き残しているよ。 「人間が猫を殺したり怪我させたりしようものなら、その人間は直ちに死刑にされるか、さもなくば町中の人々から袋叩きにあった」ってね!  もちろんぼくらも人間のために働いたんだよ。  ネズミが穀物を荒らし疫病を広めるから、ぼくらが退治して人間をネズミの被害から守っていたのさ。    ぼくは怖かったけど仲間の猫に、 「どんなふうにして殺されるの?」  って訊いたことがあるんだ。  するとみんなは口を揃えて、 「保健所おくりだよ」  っていうんだ。  その頃のぼくには、さっぱりわからなかった。  でも後でぼくも保健所に送り込まれそうになるんだけどその話はまた後で。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!