芸術を愛するモノ<1>

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芸術を愛するモノ<1>

 賑わっていた街から観光客が減り、屋台は店じまいを始めていた。 「寂しくなってきちゃった。ずっと旅していたい。今日で終わりなんて……」  ハナは可憐な容姿をしていた。白いブラウスから伸びた手で、頬を撫でている。 「楽しかったよね」  サキは慰める。  卒業旅行最終日の夕暮れ時のことだった。 「あれ……? 来た時は、こんなお店なかったよね」  重厚な建物だった。カーテンの隙間から美しい装飾品が見える。 「入ってみよう!私設美術館みたいだよ」  ハナは好奇心旺盛で、怖いもの知らずの性格だった。 「え?」  サキは、この日も同じようにハナに従った。 ー 無料 ご自由にお入り下さいー  入口の看板にはそう書かれていた。 「まだ時間あるでしょ。旅の最後の思い出に」  「そうだね。時間もあるし、いいよ」  サキが頷くと、ハナは満面の笑みで扉を開けた。  サキは時間を気にしていた。  電車の時間が遅れたら、私がチケットを取らなきゃならないのに……。 「誰かいますかー?」  館内は明るいが、人の気配がしない。  喧騒は厚い扉に遮られる。 「すごい!キレイー!」  ハナは部屋の奥へ進んでいく。  骨董品が棚の上に雑然と並べられていた。  古い仏像の隣に煌々と輝く宝石類、その横には銀細工のゴブレットが鈍い光を放っていた。 「どれも本物みたいだけど……」  バラバラで愛着を感じなかった。  壁には絵画が1枚だけ飾られている。  灰色の中に光が消えていく夕暮れの絵だった。 「この絵は好きだな」 「サキはほんと暗い絵好きだよねー」  2人はこの春に美術大学を卒業する。  ハナはこのまま絵を描き続けることが決まっていた。 「それにしてもここ、面白いね!」  ハナは無邪気に楽しんでいた。 「確かに……。でも、展示ケースにも入れないで、防犯的に大丈夫なのかな?」  奥の部屋に進むと、白い布がかけられた何かが大量に並んでいた。  150センチから2メートル近くまで、大きさは様々だった。 「前衛芸術か何かかな?」 「高さや形的に、木のオブジェとか? 見てみようよ」  ハナは布を引きずり下ろした。 「ちょっと、やめなよ!」  止める間もなかった。 「……!! なに……これ?」  ハナは悲鳴をあげて硬直した。  それは人間だった。
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