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山の陰に隠れていく夕日が上空を薄橙色に照らし、台風がもたらした増水が未だに残る遊水地の近くできつく抱き締め合う2人の男女。
この光景を目にしてレンズを向けたのは、怪獣災害発生の翌日の事だった。
1985年8月23日、私は盛岡にいた。当時世間を震撼させていた東北地方での女子高生連続殺人事件の取材活動の為、数週間かけて数人の同僚記者と共に東北各県を手分けして走り回っていた。
雫石駅の近くにある事件現場の取材を終えたその日の夜、私は盛岡駅前にあるホテルの一室でテレビ番組を観ていた。その画面に映るのは民放キー局制作のトークバラエティ番組だったが、放送開始から20分も経たずに突然チャイムと共に臨時ニュースに切り替わり、報道センターに隣接するスタジオにいる中堅の女性アナウンサーの姿が映し出された。そのアナウンサーの表情は、いつもの天然そうなほわっとした感じではなく、強張っていた。
『番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。今から数分前、相模湾内の神奈川県茅ヶ崎市沖に巨大怪獣が出現しました。繰り返します。今から数分前、相模湾内の神奈川県茅ヶ崎市沖に巨大怪獣が出現し……』
会社から支給された自分用の携帯電話が鳴ったのは、臨時ニュースが始まって間も無くの事だった。電話の相手は、本社の雑誌編集部に残っていた副編集長だった。
『おう、臨時ニュース観てるか?』
「あ、はい」
『関東地方を直撃してる台風の対策で精一杯なのに、想定してなかった怪獣出現の事態が起きて政府がてんやわんやだ。お前、明日台風が過ぎ次第東京に戻れ。これから起ころうとしてる怪獣災害の取材を頼む』
「……わかりました」
『頼むぞ』
翌日の朝、急いで確保した切符を片手に私は新幹線に飛び乗った。
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