災厄が過ぎた後

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 瓦礫だらけの風景が続く街を歩いていると、突如としてぽっかりと大きな穴が開いたようなコンクリートの壁で覆われたとても広いスペースが目の前に広がった。台風がもたらした大雨の水が未だに残る児童公園兼遊水地で、普段は子どもたちの明るい声で賑わっているであろう広場の遊具は完全に水に浸かっていた。  この遊水地の周辺には住宅やマンションといった建物は無く、農業用地が広がっていた。が、台風の猛烈な突風もしくは巨大怪獣が暴れた事によって飛び散ったと思われる何処かの建物の瓦礫が散乱しており、焦げた臭いも僅かにしていた。  私は周辺の風景を写真に収めた。遠くに見える山の陰に夕日が沈もうとしているのを見て、被災地の光景を写真に収める作業に集中して気が付かなかった時間の経過を思い知らされた。  思わず少しの間遠くの山々の風景を見てボーッとした私だが、何かの気配に気付いてふと目線を少しずらした。  誰だ?――私は目を凝らした。  遠くの山々と夕日の風景を背景に、きつく無言で抱き締め合う2人の男女がいたのだ。白いTシャツに薄青のジーンズを着た20代前半らしき若い男性と、青と白のストライプのワンピースを着た同じく20代前半らしき若い女性。  巨大怪獣によって蹂躙された被災地には不釣り合いなラブストーリードラマのワンシーンのような光景に、私は静かに驚き、十数秒の間呼吸を忘れた。
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