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「さっさと、用件言ってくれない?まさか、本当に月が綺麗だとか言う為に来た訳じゃないでしょうね。」
「そう言うなよ。せっかちなのは、昔のまままだな。美人になっても、性格が勿体ないな。」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。」
久しぶりに会って、こんな会話をしたくはなかった。
私が背を向け、帰ってやろうとすると、笑いながらこう言った。
「海外に行くんだ。もう、日本に戻らない。」
「……は?」
心臓が刃物で貫かれたような、鋭い痛みを覚えた。
「今日はたまたま、昔世話になった町を見に来ただけなんだ。」
「あんた、そんな義理固いやつだったっけ?超笑えるわ…。」
声が、震えて上手く出せない。
「俺だって人間だ。何かを懐かしんだり、したって普通だろ。」
「はっ!一応赤い血が流れてたものね!海外って、どこに行く気?」
「……フランスだ。」
フランス……。
ああ、こいつの死んだ母親の故郷か。
じゃあ、嘘ではないのね。
あんなに、母親が大好きだった彼が言うのだもの。
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