7年越しのさようなら

4/5
前へ
/5ページ
次へ
「いいんじゃないの。お母さんの住んでいたところに行くんでしょ。お屋敷だったわね。広くていいところよねきっと。」 「あぁ…まぁな。」 「貴方には、こんな田舎つまらないでしょ。むしろ、戻ってきた事の方が、驚きだし。」 「……そうだな。」 急に歯切れが悪い。 何を言おうとしているの? そんな話をされたら、言う事は一つしかないでしょ。 早く言いなさい。 さようならって……ちゃんと。 目を背ける、彼。 私はあの頃と同じように、彼の言葉を待った。 あぁ、思い出した。 7年前も彼に呼び出されて、ここで何を話したのか。新しい環境の話や、世間話なんか1つだって口にしていない。ただ、怒鳴って、殴って、蹴って飛び出したのだ。 結局、ちゃんとお別れの言葉をお互い言わなかった。 それから、彼と会うどころか、連絡もこなくなった。 これが私達のお別れ。 実に、あっさりしている。 それはそうか。 恋愛感情は、無いも同然のお付き合いをしていたのだから。 ちゃんとしたデートもせず、お互いやりたい事ばかりやって、一緒に数年暮らしただけ。 何とも想っていなかった。 でも、何故私を呼び止めたの? わざわざ別れを言いたかったというの? 今更何故……。 今度こそ、ちゃんとさよならしてくれるの? 「紗知。」 「何よ?」 「会うのは、最後になる。だから言いたかった事を言っておきたい。返事はいらねぇから。 昔から愛していた。今もまだ愛している。」 彼は私の横を通りすぎて行った。 今何て言ったの? 何で今更言うの。 そんな事……お互い言わなかったじゃない。 言わないようにしていたはずなのに。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加