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「いいんじゃないの。お母さんの住んでいたところに行くんでしょ。お屋敷だったわね。広くていいところよねきっと。」
「あぁ…まぁな。」
「貴方には、こんな田舎つまらないでしょ。むしろ、戻ってきた事の方が、驚きだし。」
「……そうだな。」
急に歯切れが悪い。
何を言おうとしているの?
そんな話をされたら、言う事は一つしかないでしょ。
早く言いなさい。
さようならって……ちゃんと。
目を背ける、彼。
私はあの頃と同じように、彼の言葉を待った。
あぁ、思い出した。
7年前も彼に呼び出されて、ここで何を話したのか。新しい環境の話や、世間話なんか1つだって口にしていない。ただ、怒鳴って、殴って、蹴って飛び出したのだ。
結局、ちゃんとお別れの言葉をお互い言わなかった。
それから、彼と会うどころか、連絡もこなくなった。
これが私達のお別れ。
実に、あっさりしている。
それはそうか。
恋愛感情は、無いも同然のお付き合いをしていたのだから。
ちゃんとしたデートもせず、お互いやりたい事ばかりやって、一緒に数年暮らしただけ。
何とも想っていなかった。
でも、何故私を呼び止めたの?
わざわざ別れを言いたかったというの?
今更何故……。
今度こそ、ちゃんとさよならしてくれるの?
「紗知。」
「何よ?」
「会うのは、最後になる。だから言いたかった事を言っておきたい。返事はいらねぇから。
昔から愛していた。今もまだ愛している。」
彼は私の横を通りすぎて行った。
今何て言ったの?
何で今更言うの。
そんな事……お互い言わなかったじゃない。
言わないようにしていたはずなのに。
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