HERO

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HERO

雨音のなかでアラームが鳴っている。スマートフォンの振動も。 佐山和樹はベッドから手を伸ばす。床にスマートフォンを置いていた。枕元に置かないのは近いとすぐとめて二度寝するため。携帯電話の電波が「脳に悪い」と聞いたのもある。しかしアラームのとめ方は体が覚えていて、スマートフォンを手探りで見つけると適当に画面をこする。何度かこするといつもとまった。見なくても起きなくてもできるからもっと離して置かないと二度寝防止にはならない。 寝起きはここ数日悪かった。「いつまで降ってんだよ」と和樹はつぶやく。梅雨らしい梅雨で今は強雨。屋根を叩き雨樋からは溢れ、それらの水音がうるさく眠りは浅かった。嫌な夢も見た気がする。どんな夢だったかははっきりしない。体の節々がだるかった。睡眠中にムダに力んだようなだるさ。 (今日は休もうか)と思う。就職してこの半年の平日毎朝思った。今朝は雨のせいもある。 やっと起きて洗面所に行き顔を洗っていると「もう邪魔」と愛里の声がした。年の離れた妹で高校2年生。歯ブラシを取りたいのに和樹が邪魔でウロウロする。しかし和樹は特によけない。 顔を洗っても眠気は覚めずダイニングに来て椅子に座りリモコンでテレビを替えていると「5分早く目覚ましかけたってその分ボンヤリしてんじゃ意味ないでしょ」と母親が和樹の朝食をテーブルに置く。「早く食べなさい。また遅刻よ」    *** 小説【 HERO 】を収録した短編集は電子書籍で発売中です。作者の自己紹介、または「あらすじ」の下部にあるHPから購入サイトにお進みいただけます。ぜひ。
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