寸前クラッカー

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その隣でふわふわとした栗色の髪を指に巻き付けて笑顔を浮かべるもうひとりの友人が、声を間延びさせて言う。 甘ったるい口調と可愛らしい容姿が似合っているのに、華麗に私を裏切る姿が恨めしい。 「ちゃんと聞いてたよ。今日は彼氏とデートなんでしょ? だから遊ぶの今度にしようって話でしょ?」 「なぁんだ、ちよちゃんしっかり聞いてるね」 ちなみに〜夜ごはんも彼氏と食べるの、いいでしょう? と幸せ全開に語る友人のハグに何だか複雑な気持ちになる。 「それであんたは何を見てたの?」 「んー、いや、別に」 グイッと身を乗り出した彼女に下手な誤魔化しをしてみれば、ふぅん、と疑わしそうな目を向けられた。 でも言いたくないものは言いたくない。 それが伝わっているのかいないのか、友人たちは何も聞かずにいてくれるし。 「それじゃあ、今度の日曜はどう?」 「あっ、ごめんねぇ、バイト入ってる」 「私も家の用事があるかも」 ……計画性はないし、予定の合わない友人たちだけど、一緒にいるとたのしくて、私は本当に恵まれてるな、と笑みがこぼれた。 本当に恵まれてる。 いい思い出ばかりにあふれているんだから。
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