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──ちがう、違う、ちがう。
私に向けられたものじゃない。って、わかっている。わかっているけど、“ こいびと ” を想う眼は、あの頃見ていたものに似ていた。
まっすぐには見せないくせに、やさしくて慈しむような瞳。
『すきだよ』
それは私のものだったのに。
「……千頼? どーした?」
「あ、ううんっ。何も無いよ」
私、恵まれてる。友人がいて、誕生日を祝ってくれる家族がいて、いい思い出ばかりにあふれてる。
だけど、それだけで満足してたわけじゃなかった。
たったひとつだけ…、足りなかった。
「あ、やっぱりある」
「え? なになに急にどーしたの」
「光。今日、私の誕生日なの。おめでとうって言ってくれない?」
自分でも不遜な言い草だとわかっていたけれど、予想通りに面食らった光はちょっとだけ可笑しそうに笑みをこぼす。
誕生日で良かった。何かに託けてきっかけが欲しかったに過ぎないだけのことだから。
意図なんてわからなくていいけど、彼は不思議そうな表情を覗かせる。千頼にしては珍しいわがままじゃん、と微笑みが向けられる。
「えー、千頼、誕生日、」
──ねぇ、
「おめでとう。千頼」
たった一言でも、一秒でも、いいから。
時間、止まんないかなぁ。
そう願ってしまうほどに、ずっと、希っていた人。足りない部分で佇んでいる人。…あの日、私を選んでくれた人。
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