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でも、それでも。
過去形にできない。
留めるなんてできない。伝えるには手遅れ。言葉回しは不器用で、賞味期限切れの在り来りのフレーズだけが温かいまま保存されてる。
ああそれでも。
私ね、もうあの頃から、ずっと。
「やば、バイト遅れる」
「俺も待ち合わせ遅れそうだわ」
「やばいじゃん、急がなきゃ」
「そうだな。…じゃあね、千頼」
「うん、ありがと。光」
ずっと。
「光、」
「ん?」
数歩進んだ先の彼が振り返る。茶髪が太陽に透けてきれい。不思議そうな表情が懐かしい。聞き返す声が、瞳が、やさしい。
どれも切り取っても、あの頃のままなのに。
だけどね、ちがうよ。
明らかに違うよ、私だけが。
「ひとつ言い忘れてた」
「なーに?」
爆発寸前の、恋心。
長年愛していたそれに──、
「おめでとう!光!」
さよならでも告げてみよう。
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